一般県道前原谷仙養線・豊松〜油木

 県道前原谷仙養線は、神石郡神石高原町小野で、県道奈良備中線より分岐し、旧豊松村の区域を北から南へと縦断する。途中、岡山県高梁市備中町をかすめたあと、再び広島県に戻り、神石高原町花済(はなずみ)で県道芳井油木線に合流する県道。




 上段左側の写真は、県道前原谷仙養線の起点の様子。国道・県道の分岐点では、上位番号の路線から下位番号の路線が分かれるという形が通常の形であるが、ここでは下位番号(107)の奈良備中線から、上位番号(105)の前原谷仙養線が分かれるという変則的な分岐点となっている。前原谷仙養線は新成羽川ダムの最上流部に架かる小町橋で成羽川を渡り、旧豊松村の区域を南下していく。新成羽川ダムは、昭和43年に完成した中国電力の発電用ダムで、ダムが堰き止めてつくった備中湖と名付けられたダム湖は東西に細長く、ダムの堰堤はここから東へ10kmほど下流にある。



 小町橋を渡ってから少し進むと、2kmほど改良された道が続くが、天田川沿いに林道が分かれるところで、改良済みの区間が終わり、ここからが先が未改良区間となる。県道は、天田川の右岸から離れて坂道となり、山手のほうへと登っていくほうの道で、ガードレールに取り付けられた小さな標識の行先は、貝原・四日市となっている。




 切り立った山の西斜面を稜線に沿って、左へ右へとカーブを切りながら徐々に標高を上げつつ、登っていく。途中の沢には、コンクリートの砂防堰堤が築かれている箇所もある。




 林の中から抜けると、田んぼが見えて、ようやく人の息吹が感じられるようになる。道路左手のなだらかな斜面にぽつりぽつりと点在する民家があり、一段低いところにある水田を見ながら進んでいく。部分的に拡幅されている区間もあるが、基本的には未改良の1車線幅の道路が続いている。




 細い谷をさかのぼるように、上りの坂道を進んでいくと、東郷という名前のバス停があるところで、村道が左右から集まってくる。五差路となっている交差点の少し先から、片側1車線に改良された道となる。改良された道路は、旧豊松村の役場があった四日市の集落まで続いている。


 峠の頂上を越えて、下り坂となった県道から少し外れたところに、道路工事の際に出土した、夫婦の墓であろうと思われる五輪さんを祭った「幸運仏」というお堂がある。縁結びにご利益があるそうで、私が訪ねると、世話人のおばさんが出てきて、「暑いのにようお参りくださいました」と言って、お菓子と冷たい麦茶、それから豊松のトマトを出してもてなしてくれました。世話人のおばさん、どうもありがとうございました。
 「昔はこの辺の道はみな狭うて、前に進みょうるんか、後ろに下がりょうるんか分からんような道ばぁじゃったが、だいぶようなって…」というのは、おばさんの弁。




 四日市の集落に入ろうとする手前に、右へと分かれる道があり、「米見山山頂公園 とよまつ紙ヒコーキタワー」と書かれた看板が建っている。1車線幅の道を登って着いた米見山の山頂からは、山間に広がる旧豊松村の集落のほかに、中国山地の山々が一望でき、天気がよい日には鳥取県の大山まで見渡せるそうだ。そして、山頂公園内に建つ高さ26mの紙ヒコーキタワーからは、エコ用紙を使った紙飛行機を飛ばすことが出来る。



 豊松小学校や保育園の横を通り過ぎると、もとは直進していた県道が右へと大きくカーブする形に新しく作り替えられている。神石高原町豊松支所の前をかすめ、県道布賀油木線の旧道を拡幅した左手に商店が建ち並ぶ道を進んでいくと、突き当りが三差路となっている。




 交差点から先は、県道布賀油木線の四日市バイパスとして作られた区間と重複している。交差点を左折し、掘割となった坂道を登って下りた先に、「芳井 →」と書かれた小さな案内標識がある橋のたもとを右折して、南へと別れていく。



 再び、田畑と点在する民家、それと山を見ながら進んでいく。初めは谷の左側の山すそを進んでいた県道は、いったん林の中に入ったあと、今度は谷の右側の山すそを進んで行ったあと、林の中へと吸い込まれていく。




 林の中に続く緩やかな上り勾配のくねくねとした坂道を登っていくと、左手へと分かれる道が見えたところに、広島県と岡山県の県境がある。距離にして500mほどの岡山県道前原谷仙養線は左手はヤブ、右手には林あるだけで、人家の類は全くない。



 再び県境を越えて、岡山県から広島県に戻った先は、現在では神石高原町だが、合併前は油木町の区域だったところで、花済という地名である。



 薄暗い杉の木立の中を走っていくと、林の前方が明るくなって、民家や畑が見えるてくると、ほどなく県道芳井油木線とT字の交差点で合流する。ここが県道前原谷仙養線の終点となっている。ちなみに、仙養というのは昭和31年まであった村の名前である。


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